朝大学Stories vol.005

自分のカラダのことを知れば、
もっと自分が好きになれる。

天野賀恵子
やさしい薬膳クラス講師

伝統医療に出会うことで、
ボロボロになった理由が見えてきた

「薬膳」というと、敷居が高いイメージを持つ人が多いかもしれません。自分の体質やその日の体調に合った食べ物をいつもの食事に取り入れ、身体が内側から元気になるイメージを膨らませることが、薬膳の考え方。実は、簡単に生活の中に取り入れられる身近なものでもあるのです。「やさしい薬膳クラス」を担当する天野賀恵子先生は、「“朝起きて何を飲みたいか”を考えることも薬膳の一つ」と言います。

「薬膳を学ぶと、“なぜいつもコーヒーを飲みたくなるのか”という理由がわかってきます。コーヒーの香りには気を巡らす効果があって、ストレスを感じる時は香りを求めてコーヒーを選んでしまうんですね。日々の生活の中で、自分が選択していることにはすべて理由があります。それがわかってくると、薬膳がぐっと身近になりますよ」

天野先生が中医学や漢方などの伝統医療を学び始めたのは、30歳を過ぎてから。大学時代に発症したアトピー性皮膚炎をちゃんと治したいと思ったことが、きっかけだったそうです。

「大学4年のときに、就職活動のストレスでいきなりアトピーになったんです。顔の人相が変わるくらい腫れてしまい、たまたま内定をもらった会社が化粧品メーカーだったので、この顔で……というのがさらにストレスになりました。ステロイドでおさえながらやり過ごす日々を送っていたのですが、“なんで私だけ?”ってずっと思い続けていましたね」

化粧品メーカーで営業職を3年間務めたのち、バックパッカーで海外を周り、帰国後は英会話スクールに転職。7年間にわたり教室のマネジメントや人事、広告宣伝などの業務を担当し、当時は激務の日々だったと振り返ります。

「夜中2時頃まで仕事して、その後飲みに行くという生活を続けていたので、身体はもうボロボロでした。今は当時のことを“暗黒時代”と呼んでます(笑)。やりがいはあったんですが、“倒産するかもしれない”という情報が耳に入り、これもいいタイミングかもしれないと、すぐに辞めることを決めて、そのための準備を始め、32歳の時に退職しました。その後は自分のやりたいことをやろうと、地元の宮崎に戻り、当時流行っていたゲルマニウム温浴のサロンを始めたんです。

それと同時に、ようやく少し自分の時間ができたので、本腰を入れてアトピーを治そうと思いました。漢方薬にはなんとなくいいイメージを持っていたので、試しに処方してもらって飲んでみたら劇的に効いたんですね。身体の内から効くというのを初めて実感したんですが、保険外なので、値段が高くてなかなか続けられない。でも自分で食事や生活を変えていったら、こんな感じで治るのかなとイメージができたんです。そこから漢方や中医学、アーユルベーダなどを学び始めました。学んでいくうちに自分の身体の傾向や不調の原因が理解できて、当時は“なんで私だけ?”と思っていたのが、“あの頃の自分なら仕方ないな”と素直に思えるようになりました。そこからどんどんおもしろくなりましたね」

ストイックになり過ぎることなかれ。
身体が発するサインに合わせた養生を

宮崎でサロンを経営しながら、伝統医療を学ぶために月2回は東京に通う日々。その間にご主人と出会い、結婚を機にサロンを売却して再び東京へ戻りました。それからは、講師業一本に絞って今に至ります。

「もともと自分にしかできない仕事がしたいとずっと思っていました。“手に職”というのに憧れてたんですね。伝統医療を勉強していく中で、“これを仕事にできたらいいな”と思うようになり、講師業に入っていきました。“これやりたい”と思った瞬間に、どんどんタイミングが合って、いろんなきっかけがつながって、今に至っているというのが正直なところです」

目の前に訪れる出会いやチャンスを生かして、自分の力にできたからこそ、自分に一番合った働き方を手に入れることができたのでしょう。

「サロン経営をしていた時に、私は自由がいいんだなと思ったんです。途中で変化したいと思った時に、店舗を持っていると難しいんですね。もっと身体一つで自由に動きたいし、一カ所に留まるタイプじゃないなと。講師業なら、どこに行っても自分の知識と身体一つでできる。これは私に向いているなと思いました。店舗の内装や設備に投資する分、自分の勉強にお金をかければ、どんどんインプットが増えていく。それってとても合理的だなと思ったんです」

八ヶ岳で自然を感じるツアーを定期的に開催。森林散策をして採取した薬草で薬酒をつくったり、自然のエネルギーをいただくことで、元気になれる旅を企画している。

今はさまざまなスクールで講師を務めるかたわら、2014年に「セルフメディケーション協会」を立ち上げ、代表理事を務めています。セルフメディケーションとは、自分で自分の身体をコントロールすること。同協会はその指導者を育成し、“セルフメディケーション”の大切さを広く伝えることをめざしています。

「身体は、“今危ないよ”“養生しなさい”というポイントをちゃんと不調という症状で教えてくれています。それを敏感に察知して、養生につなげていくことが病気の予防になるのです。こういう仕事をしていると、常に養生をしているように思われるかもしれませんが、実はそうでもないんです。飲み会となれば、ビールを浴びるように飲んだりもします(笑)。このメリハリが大事なんですよ」

講座後の飲み会が大好きで、飲みっぷりも豪快。そんな“ヤンチャ”な一面も持つ天野先生。ストイックになり過ぎず、身体が発する警告のサインを丁寧に読み取り、必要な時に最適な手段で楽しみながら自分の身体をコントロールしています。いつも自然体でほがらかな先生を見ていると、“これならストレスなく、自分にもできそう!”と思えてくるのです。

「伝統医療にはゴールがありません。だから、この先ずっと勉強の日々は続くんですが、好きなことなのですごく楽しいですね。白黒付けない曖昧な理論が中心なので、その分柔軟性があって、いろんな解釈しながら自分で広げていけるおもしろさがあります。今は日々たくさんの生徒さんと接する中で、常に観察をしながら、自分なりの解釈をつくっているところです」

漢方薬との出会いをきっかけに、一気に伝統医療にのめり込んでいった天野先生。ボロボロだった身体が整っていく過程を実体験したことで、さらに深い学びに駆り立てられたそうです。

「大学時代にアトピーを発症してから、特に英会話スクール時代は不調の塊でした。当時は生理の一週間前になると、いつも激痛で目が覚めていたんですが、時計を見ると決まって早朝5時……。東洋的には陰の一番深まる時間で、血液の滞りのある人はその時間に出ると言われているんですね。それを知って、“だからその時間だったのか”と合点がいきました。伝統医療を勉強すると、過去の症状と理論がつながったり、今の不調の原因と過去の経験がつながったりと、見えていなかったものが見えてきて、自分の中に軸ができるんです。つながりを感じながら生活していけるので、今この仕事をしているのは、過去にこの経験があったからなんだ、ということも見えてきたり。自分を取り巻くいろんなつながりが見えると、人生もっと楽しめると思いますよ」

天野先生に話を伺っていると、「楽しい」「おもしろい」という前向きな言葉が何度も飛び出し、ワクワクした気持ちにさせられます。この道に進んで、大きな苦労はなかったのでしょうか。

「そういうことは、忘れちゃうんですよね(笑)。でも40歳で高齢出産したので、産後は大変でした。2年間は頭が回らなくて、やりたいように講座ができなかったですね。でもその苦しい2年間を経験できて本当によかったと思っています。自分のマイナスの経験がプラスに生きるのも、この仕事のいいところ。こうした経験を広く伝えていきたいと思っています」

大切なのは、流れを変えるのではなく、
流れに乗ってしまうこと

あらゆる迷いや悩みの中で、ふと立ち止まってしまいがちな30代。天野先生は大きな節目ごとに前向きな決断をしながら、軽やかに自分の道を切り拓いてきました。そのコツは、“流れに乗ってしまう”ことにあるようです。

「20代の時は、自力でなんとか流れを変えようという性格でした。例えば、先方とスケジュールが合わなかった時に、”合わせてください”と言ってしまったり。でもある出来事をきっかけに、そんなことではいい流れがつくれないと気が付いたんです。

実力主義だった英会話スクール時代は、結構いいポジションをいただいていたので、自分はできると思い込んでいました。でも、30歳を過ぎた頃、ドーンと二段階降格になり、給料は大幅にダウンしました。そこでようやく目が覚めて、今までの自分のやり方がいけなかったんだと気が付いたんです。心も身体も一度ドーンと落ちると、客観的に見れるようになりますよね。それで、これからは流れを変えるのではなく、“流れに乗っていこう”と思ったんです。エネルギーも使わないので、だいぶ楽になりました。退職に際しても、タイミングを読み取って、今だと思ったときに辞めて、ピンと来たことを始めようとしたら、思いがけず周りの人たちが協力してくれました。少し自分から動くことで、どんどん流れができて、あとはこのまま流されていくんだ、と身を持って実感しました」

丸の内朝大学の講師を担当するようになったのも、タイミングと条件がぴったりと合ったことがきっかけでした。ちょうど産後の体調が回復した頃に、事務局の方から打診があり、トントン拍子で決まったそうです。今年の秋学期で2度目の開催となりますが、いずれも満員御礼の人気ぶり。ストレスを抱える働き盛りの受講生が多いことに、天野先生もやりがいを感じています。

薬日本堂漢方スクール(品川校)では、漢方養生指導士コース、からだ巡らせ漢方ヨガのクラスを担当。多くの生徒さんに出会えることが、とても楽しく励みになっているという。

「働き盛りのみなさんには、自分の声をちゃんと聞いて、自分の身体のことを考えてから、仕事と向き合ってほしいと思います。身体が不調になると、仕事も楽しくないですからね。みなさん体調や体質が違うように、できることや得意分野も違います。なので、まずは自分のいいところを知って、それを生かしてほしいと思うんです。そのためには、まず“自分を好きになること”が大事。それができると、同じことをやるにしてももっと楽しめると思います。自分のことを見つめる時間をたくさんつくって、楽しく働いてほしい。そんなハッピーになるための手段として、漢方や薬膳を学んでいただきたいですね」

そして最後に、天野先生から働く女性のみなさんへ。女性として生きる上で、“これだけはぜひ知っておいてほしいこと”とは?

「会社員時代は、男性に負けないようにと思ってがむしゃらに仕事をしてたんですが、それはちょっと違うなと今となっては思うんです。自分は男性と同じだと思って仕事をすると、身体に不調が出てきます。そもそも男性と女性は役割が違うので、それぞれのいいところを生かしていくと、仕事もうまくいきますし、生活も充実していくんですね。女性にしかできないことを感じて、知ってほしい。男性と同じでは“ダメ”です。女性だからできるスタイルを持つことが、幸せへの近道だと思いますよ」

天野 賀恵子
一般社団法人セルフメディケーション協会 代表理事

大手化粧品メーカーに勤務し、 その後英会話スクールの広告宣伝、人事を経て起業。臨床経験を生かし、現在は薬日本堂漢方スクールを中心とし、伝統医療の講座を担当。 大学在学中に発症したアトピー性皮膚炎を治したいと思い、30歳を過ぎてから伝統医療を学び始める。中医学、漢方医学、インド医学(ヨガ)を学び、アレルギー体質を改善。誰でも簡単にできるセルフメディケーションを提案。

【2015 年度担当講座】

丸の内朝大学 トップページへ
丸の内朝大学 トップページへ