ブラスタを見て
「自分たちも何かできるかも」と思ってほしい。
スーツ姿にサングラスがトレードマーク。ほぼ全員がサラリーマンという異色のパフォーマンス集団「Team Black Starz(ブラスタ)」。ひとたび彼らが踊り出すと、ダンスの迫力はさることながら、コミカルな動きや笑いのツボをおさえた演出に、誰もが釘付けになってしまいます。その証拠に、YouTube総再生回数は1,000万回を突破。確かなダンス技術と豊かな発想力を生かしたパフォーマンスは、ダンスの枠を超え、見る人の心を揺さぶるエンターテインメントとして幅広い支持を集めています。
そんなブラスタのリーダー、吉田一樹さんこと、ズークさんが、メンバーの田中総三郎さんこと、ザブさんとともに講師を務めるのが、今春初めて開講された「フラッシュモブクラス」。申し込み開始後、わずか数分で締め切られたという超人気クラスです。“日本初のビジネスパーソンフラッシュモブチームの結成を目指す!”と銘打っているだけあって、授業中は笑いと熱気にあふれ、受講生のみなさんの“楽しむこと”への意気込みがぐいぐいと伝わってきます。
ズークさんがダンスを始めたのは、大学のサークルがきっかけでした。やればやるほど、ダンスの魅力にのめり込んだものの、次第にある思いを抱くようになったそうです。「ダンスをしたことがない人にも、もっと分かり易くダンスの楽しさを伝えたい。楽しんでもらいたい。“かっこいい”だけではなく、“おもしろい”と思ってもらえるようなパフォーマンスをやってみたい!と思うようになりました」
そこで、「誰でも知っているわかりやすい曲で、おもしろいことをやろうよ」と同学年の仲間に声を掛けたズークさん。それがブラスタの結成につながりました。「まず手始めに、アニメソングに合わせてキレキレに踊るというパフォーマンスを新入生歓迎会で披露しました(笑)。やる前は、サークルの威厳を落とすとか、そんなのストリートダンスじゃないとか、反対の声もたくさんあったのですが、これが予想以上にウケたんです。入部希望の新入生も殺到し、学生の間で少し話題になり、ダンスのテレビ番組にも呼んでもらえることになりました」
もともと周りの人にサプライズを仕掛けることが大好きだったというズークさんは、その後も持ち前の企画力を次々と発揮。今のブラスタにつながる独自のパフォーマンス・スタイルを確立しましたが、卒業とともに解散し、メンバーはそれぞれの道を歩むことになります。ズークさんは不動産会社に就職し、マンションの営業マンとして日夜働くサラリーマンに。しかし、仕事に楽しさを見出し始めた入社7か月目、リーマンショックの影響でリストラにあうという事態に見舞われました。
「それなりに楽しんで、かつ一生懸命仕事をしていたので、さすがに凹みそうになりました(苦笑)。でも、自分がやりたいことをもう一度見直す機会を与えてもらったのかなと。そこで、エンターテインメントをやりたいというのが頭をシュッとよぎりましたが、まだここでやめるわけにはいかないと、仕事を優先し、別の不動産会社に転職することにしたんです」。
それから1年が経った頃、数人のメンバーから「ブラスタを再結成したい」という話が徐々に出るようになり、ほぼ同時期に、大学時代に踊った「エヴァンゲリオン」のテーマ曲に合わせたパフォーマンス動画がYouTube、ニコニコ動画で、それぞれ100万回を越える再生回数を記録。それをきっかけに声がかかり、ドワンゴさんの大きな公式イベントに大トリで出演することになったのです。そこで今まで味わったことのない大歓声を浴びたことで、ズークさんの中でひそかに温めていたエンターテインメントへの思いが、確信を持って再熱しました。
「当時は本当の自分とサラリーマンの自分が、知らず知らずのうちにだんだん離れちゃって、少し違和感がありました。そんな時にちょうどブラスタを再結成することになって。とにかく楽しくて、毎週土日、年間50本のイベントに出演しました。一日で4件ハシゴとかもありましたね(笑)」
日本経済を支えるサラリーマンでありながら、エンターテインメントで人を楽しませたい。でもどちらも中途半端にはやりたくない。そんな葛藤から、半年間悩みに悩みましたが、「今一番やりたいことに全精力を注ぎたい」と退職を決意します。
「メンバーはみんな仕事をしながらやってたんですが、僕は仕事を辞めて、ブラスタの活動に専念して、マネジメントに本腰を入れて動いてみようと。みんなはそれぞれの仕事を続けながら、一体どこまでいけるのか、チャレンジしてみたいなと思ったんです」昨年7月には、ほとんどがサラリーマンというグループでは異例の赤坂BLITZで単独公演を行い、超満員の大成功を収めました。
「とにかくいけるところまでいきたい。そんな僕たちを見て、ブラスタがあそこまでやっちゃってるなら、自分たちだって何かできるかも、と思ってくれる人が増えたらいいなというのが根底にあります。何歳からでも、自分のやりたいことをとことん極めて、人生を謳歌できる。そのことを身を持って証明できたら嬉しいですね」
“日本のサラリーマン”のイメージを
エンターテインメントで打破したい。
ブラスタと切っても切り離せないのが、“サラリーマン”という存在。それは丸の内朝大学にも共通するキーワードです。ズークさんは小学4年生の頃、朝の満員電車で通勤するサラリーマンを見て、「何で大人ってあんなつらそうな顔をして電車に乗ってるんだろう」と思ったことが、大人になってもずっと頭から離れなかったそうです。
都内の中学校で行ったダンス指導の様子。生徒たちはメキメキ実力をつけ、「全国中学校リズムダンスふれあいコンクール」で文部科学大臣賞・最優秀賞を受賞した。
「もちろん実際には生き生きと楽しんでいるサラリーマンの方もたくさんいますし、僕もサラリーマン時代は楽しかったんですが、日本のサラリーマンってどこかネガティブなイメージがあるじゃないですか。そのイメージをぶち壊したいんです。そのために、まずはサラリーマンがエンターテインメントすることでみんなに楽しんでもらい、そのことを自ら楽しむ。そんなことができたらいいなと、朝大学で仲間を募って、フラッシュモブチーム『チームモブスターズ』を結成し、すでにアクションを起こし始めています。題して、“丸の内グッドモブニングプロジェクト”。ゆくゆくはその輪が日本中に広がって、ムーブメントになったらいいですね」
その言葉の通り、「フラッシュモブクラス」の受講生たちは実際に街に飛び出し、通勤する人々が行き交う朝の丸の内の路上で、フラッシュモブを行ってきました。「みんなでおもむろにサングラスをかけて、雑踏の中で立ち止まるというパフォーマンスを行いました。丸の内を行き交う人たちを楽しませようという気持ちでやったはずが、終わると受講生のみなさんが一番楽しそうでした(笑)。“人に楽しんでもらうこと自体を楽しむ”というすごく素敵な現象が生まれていて、みなさんのパワーを思い知らされましたね」
この時、遭遇した道行く人たちの中には、おもしろがってツイッターでつぶやいてくれたり、写真を撮ってくれた人も多く、その反応に大きな手応えを感じているそうです。「最終的には、“日本のサラリーマンって朝からめちゃくちゃ楽しそうなことをやってるな!”というふうに世界中から見てもらいたい。そして、子どもたちから見ても、大人ってすごい楽しそうで、働いて家庭を養うだけが大人じゃないんだって思ってもらえたらいいですね。“大人だけど、こんなことやっちゃっていいの?”みたいなところに、どんどん挑んでいきたいと思ってます」
子どもの頃、通勤ラッシュ時の満員電車で目にしたサラリーマンの姿。そのインパクトが、今も心のどこかでズークさんを突き動かしているのです。
何より大切なのは、
自分が本当に楽しいと思う気持ち。
目の前にあふれる情報の波に翻弄されて、一番大切なことを見失ってしまう。こんな経験、誰しも心当たりがあるかもしれません。「価値観が多様化して、あらゆる情報が錯綜する今の時代だからこそ、原点に戻って、“自分が本当に楽しいと思う気持ち”を何より大切にしたい」と、ズークさんは話します。
その迫力に圧倒されるブラスタのステージ。モットーは、エンターテインメントで世界に笑いと感動を届けること。ズークさんは振付や演出などプロデュースをはじめ、マネジメント全般を担う。
「同じことを続けていると、だんだん歯車のようになって、そういう気持ちが薄れてしまうことがあります。そんな中で、もう一度楽しいことは何かを考えて、それをちゃんとやっていきたい。丸の内で働いている人が、朝から本当にフラッシュモブをやっちゃうみたいな(笑)。そうすることで、うわーっと感動して泣いちゃうとか、堪えきれないくらい笑っちゃうとか、自分で止められない感情をたくさん表に出してほしいんです。超好きな人がいて、初めて一緒にデートできるって言ったら、うわーっとうれしいじゃないですか(笑)。どうしても大人になると、色んなことを気にしながらうまく立ち振る舞っちゃって、本当に大事なことが素直にできなかったりしますよね。そういうことを朝大学で思いっきりやれたらいいなと思っています」
ズークさんは今29才。30代という節目を迎え、少なからず変化の時期に差し掛かっているそうです。
「ブラスタは“自分の仕事を100%全力、ブラスタの活動も100%全力”というメンバーが集まっています。仕事以外でも何かをしたという想いは、朝大学の受講生のみなさんも同じですよね。どうしても、それなりの役職に就いたり、会社で忙しくなってくると、やれない理由をどんどん付けていくじゃないですか。忙しいとか、時間がないとか。ブラスタも例外ではなく、うまくいくことばかりではないです。むしろ逆が多いです。そんな時、僕も自分に甘えそうになることは沢山あります(笑)。でも心の底からやりたいと思ったことは、絶対に我慢せず、環境に言い訳せずに、今やるべきだと思うんです。一回しかない人生、思いっきり楽しみたいですからね」
ステージの上では、力強いダンスの印象が際立ちますが、ひとたびステージを下り、サングラスを外すと、気遣い上手で物腰柔らかなズークさん。人を楽しませたいというサービス精神も人一倍。発する言葉の端々からも、人に対するやさしい眼差しが感じられます。そんなズークさんの「ダンスをやらない人も楽しませたい」という思いから始まったブラスタは今、「人を楽しませることを自ら楽しむ人を増やす」というフェーズへと進化しています。より多くの人が一番楽しいと思うことに貪欲になれる、そんな世の中のために――。「よかったら、みなさんも朝大学発のフラッシュモブチーム『チームモブスターズ』にジョインして、僕たちと一緒に楽しいこと、いっぱいやりましょう!」
吉田一樹
Team Black Starz 代表兼チームリーダー
上智大学経済学部卒。サラリーマンエンターテインメント集団「Team Black Starz」の代表兼チームリーダー。日本テレビ「スタードラフト会議」「スッキリ!!」など多数メディアやイベントに出演する他、全国のワンマンLIVEを中心に活動中。YouTube総再生回数は1,000万回を突破。2014年7月にサラリーマン集団として異例の「赤坂BLITZ」ワンマンライブを行い、超満員の大成功をおさめる。